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2010年1月15日 (金)

「糖質制限食のすすめ」-(2):脳のエネルギー源は糖質だけではなかった!

     「糖質制限食」を開始したとき一番気になることは、脳のエネルギー源(熱源)はどうなるのだろうという心配である。昔から脳は糖のみをエネルギー源にすると言われてきたし、日本人の戦後の栄養を支えた有名な女子栄養大学の香川 綾さんでも「脳の為に甘いものが必要なのよ」と言っておられたのを雑誌で読んだ憶え?がある。それで今回はこの大事な点を明らかにする検証編である。古い話で恐縮です。しかし貴方も古い迷信に惑わせれていませんか?少し辛抱して読んで下さい。
     香川 綾さんのご息子の香川靖雄著「図説 医化学」南山堂の臓器の生化学ー神経系ー脳のエネルギー代謝の章では「脳の主要なエネルギー源はグルコースで脂質は殆ど利用されず、アミノ酸は分岐鎖アミノ酸が僅かに利用され、重い飢餓時にケトン体が少し利用される」と述べている。また蛋白研の教授だった中川八郎著「頭が良くなる栄養学」講談社では3脳とブドウ糖の甘い関係の章で「脳はエネルギー源としてブドウ糖しか利用する事が出来ない」と殆ど断言している。しかしハーパー・生化学の代謝の統合と組織への燃料の補給の章で「飢餓時(即ち糖質を摂らないとき)には脳も適応して、酸化されるグルコースの約半分をケトン体で代用するようになる。さらに飢餓が長びくと、グルコースの寄与は酸化される全基質の5%以下になってしまう」と述べ、脳だけはケトン体をエネルギー源として利用できるが、極限の状態でも少量のグルコースは必要であると説明している。
     しかし私は英国の伝統的な動的生化学の流れを汲む生化学者でアスリートでもあるNewsholmeのニューズホーム・リーチ著「医科生化学」(野口・城戸監 訳)やニューズホーム・スタート著「動物の代謝調節」(中沢・森訳)を愛読していたので、上の二者の糖単独説には大いに疑問を抱いていた。ニューズホームらは脳のケトン体の利用について、肥満症 患者の治療で5-6週間の絶食を行った研究で、その中の3人の患者脳血管にカテーテルを挿入し、グルコース、ケトン体、脂肪酸、乳酸、ピルビン酸、酸素及び炭酸ガスの動静脈差を測定したデータを示し解析している(左表)。40日間の絶食(毎日必要なビタミン、食塩、1.5リットルの水は供給された)で脳はエネルギーの80%近くをケトン体に依存し、残り20%をグルコースに依存しているが(表の「40日間の絶食」のところを下に9-10行目に脳の燃料消費グルコース=50-75カロリー  1 ケトン体=375-400カロリーと示してあるから)、それは筋肉タンパク質の分解による糖新生で賄っていることが分かる(その上の「1日の損失」では炭水化物は0で、タンパク質が75カロリー使われたので、これが炭水化物即ちグルコースに変わって使われたのだと分かる)。1夜12時間の絶食でも脳はエネルギーの約10%をケトン 体を燃焼して、グルコースを節約する。この表から分かることは第1に、長期の飢餓時に脳が利用するグルコース量は食物吸収後の状態でのグルコース要求量の約20%にまで減少すること第2にこの様な飢餓状態(還元すれば糖欠乏状態)ではケトン体(特に3-ヒドロキシ酪酸が脳における主要な燃料であることです。彼ら4_2 はこのグルコース・脂肪酸・ケトン体の代謝相互の調節をグルコース・脂肪酸・ケトン体回路と呼んだ(左図)。グルコースを摂らない又は絶食すると、脂肪酸が脂肪組織から血中へ放出されて血中脂肪酸濃度が上昇すると、筋肉と肝臓の脂肪酸酸化速度が高まリ、筋肉による脂肪酸酸化が高まると、筋肉でのグルコースの利用と酸化が抑制される。肝臓で脂肪酸が酸化されるとケトン体が生産され血中へ放出される。血中のケトン体濃度が上昇すると筋肉によるケトン体の酸化速度が増し、その結果筋肉におけるグルコースの利用と酸化がいっそう抑制される。また脳におけるケトン体の利用が増加し、その結果脳によるグルコースの利用が低下する。血中ケトン体濃度の上昇は膵臓のインスリン分泌を促進し、インスリンの血中濃度が上昇すると脂肪組織の脂肪分解が抑制される。一方、血中ケトン体濃度の上昇は脂肪組織における脂肪分解を直接阻害する。この脂肪分解に対する二つの抑制効果は、血中脂肪酸濃度(脂肪酸には不整脈を起こす作用があるため)が上昇しすぎるのを防ぐ重要なフィードバック帰還機構*である。また糖質欠乏になると、なるべくグルコースを節約し、筋肉タンパク分解によるグルコースの供給(糖新生)を最小限にとどめようとする調節が働く。筋肉タンパク量が少なくなれば動けなくなり、防御逃避行動もとれなくなるからである。なお、この図で赤い矢印←は糖尿病治療薬であるSU剤にはカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼを阻害して脂肪酸酸化を阻止する副作用があるが、その阻害点を示してある。阻害が起こると、肝臓と筋肉の脂肪酸酸化が起こらなくなるので、ケトン体が生産されず、筋肉・脳・その他あらゆる組織でグルコースが唯一の利用可能なエネルギー源となり、低血糖がますます悪化し危険な状態となるのである。糖質制限食ではSU剤は絶対服用してはならない!
     ここで述べている「糖質制限食」は糖質のみを制限し、脂質とタンパク質を十分含んでいるので、問題はありません。さらにケトン体は新生児脳では成人脳とは異なり、活発に脳の成長:ミエリン形成や脳の栄養に利用されるらしい。*グルコース・脂肪酸・ケトン体回路が示すグルコースの節約脂肪酸濃度過上昇防止作用は内部環境の恒常性維持のための生物が持っている調節システムの一つであり、絶食マラソン渡り鳥の長距離飛翔でその極限の典型例をみることが出来る。最新のストライヤーの生化学でも「代謝の統合」の章でグルコース・脂肪酸・ケトン体の代謝調節が説明されている。次回(3)では脳のエネルギー源として重要なケトン体について解説する予定。

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コメント

グリニド薬と糖質制限について

ハモニカ先生
(実は私も大学時代ハモニカサークルに属していましたのでとても親しみ深いお名前です。はじめてこのブログのタイトルをみたときピンとくるものがありましたが、その通りでした)

先日は大変丁寧でこころづよいご回答
ありがとうございました

今も糖質制限をつづけよい血糖コントロールを保っています。

さらに進化させようと、先生のブログを復習していたのですが
Su剤の通常の血糖効果作用が糖質制限とあいまってリスクになると思い込んでいたのですが
ケトン体まで産生されなくなるとは!
これでは脳みそもエネルギー源を全く失う緊急事態ですね!
注意というより禁ぴだったのですね(幸いSu剤は使用していなかったのでほっと胸をなでおろしました)

ところで、今回コメントさせていただいたのも、また質問ですので恐縮です
おてすきがあればということで、よろしくお願い申しあげます。

本題ですが、
今も糖質をとってしまう時に、食後高血糖をおさえるために、グリニド薬(グルファスト)を服用しています
グリニド薬も強度や作用時間の違いはあっても、しろうと目にはSu剤と同じような薬剤に感じてしまう部分もあり、ちょっと心配です。
それぞれ、作用機序が違うということは見聞したような気がしましたので、
自分なりに調べてみましたが
やはり、作用機序はちがうんだな程度はわかりましたが
それが糖質制限とどう関係していくかまではわかりませんでした。
実際に使用して、いままで特に問題はありませんでしたし、高名な糖質制限の指導医も自ら使用されているようですから
問題はないと思うのですが、
ちょっともやもやしています。
ハモニカ先生であれば明快なご説明をされると思ってしまいコメントしてしまいました。
おてすきがある時にご回答いただければ幸いです。

それから蛇足1です。
最近はやりのインクレチン関連薬についてですが、SU剤との併用もうは認められているようです(もちろん糖質制限中はきんぴでしょうが)。
自分も近い将来使用する可能性もあるインクレチンなのですが一般的には(まだお役所は認めていないようですが)グリニド薬との併用は普通食の人を含めてどうなのでしょうか?グリニド薬の通常の作用だけでしたら、Su剤との併用で現在起きている通常の血糖低下作用の過剰による低血糖もグリニド薬では軽減されるように思いますが。

さらに蛇足2です
薬剤を糖質制限と併用する場合
Su剤以外で通常の血糖降下作用を高めること以外に特異的に注意しなければならない薬剤はあるのでしょうか?

蛇足3まできてしまい恐縮です。
これもインクレチン関連薬のことです。
まだ、検証されていなかったり未知の部分も多く、可能性だけから夢の薬のようにいわれているインクレチンですが、作用の仕方の違いはあってもベータ細胞に働きかけてインシュリンを出させるということはSU剤と変わりないように思える部分もあります。(まちがっているかもしれませんが、ターボとスーパーチャージャーとの違いみたいなものかと勝手に思いこんでいます)SU剤のように二次無効の可能性もあるのでしょうか?それともSU剤とは全く違ってベータ細胞を疲弊させることは全くないのでしょうか?

以上質問がいろいろになってしまい恐縮です
おてすきがありましたらということで
よろしくお願い申しあげます。

並太郎さま:
グルファスト(グリニド薬)はSU剤とは全く化学構造が異ったアミノ酸誘導体です。しかしSU剤が結合する受容体と同じ受容体に結合し、インスリン分泌を促進します。しかし良いところはすぐ吸収され、速やかに受容体に結合し、インスリン分泌を促したら、解離して体外に排出されることです。食後の高血糖を低下させる、速効インスリン分泌促進薬といえます。
グルファストを服用しているということはGIの低い糖を摂っているのでしょうね!糖質ゼロでは低血糖になってしまいますよ!
つぎはインククレチンのことですが、先日も勉強会に行ってきましたが、SU剤とインククレチンの併用で低血糖症が多発しています。薬効が定着するまで使わないほうが安全です。   GreenIsar・松澤

ハモニカ先生
ご回答ありがとうございます

米、麺類などの
糖質をとってしまう時だけ、食後高血糖をおさえるために、グリニド薬(グルファスト)を服用しています。

作用時間が短いので悪影響がなかったのですね!

インククレチンは薬効が定着するまで使わないようにします。

ハーモニカドクターこんにちは

GreenIsarさんでの
アマゾンのコメントも勉強させていただきました
暁現象のひどい人が
前の晩にアルコールを晩酌すると
改善するのは
この現象を逆手にとってのことだったのですね!
「Functional Biochemistry in Health and Disease」
の翻訳がないのは残念です。
ハーモニカドクターお願いです
しろうとでもわかる
糖尿に関する生化学の解説書が
日本にはないので
ぜひ書いてください
並太郎は真っ先に購入させていただきます。
(医師でもよくわかっていない人が多いと思いますのでそちらの需要もあると思います)

ドクターの今後のご活躍を楽しみにしています

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